
評価 A ※エロゲランキング 48位(令和2.7.10現在)
【シナリオA 面白度B 演出A 絵A キャラA システムA 音楽A H度なし プレー時間 11時間】
作品名 / メーカー名 徒花異譚 / ANIPLEX.EXE
ジャンル 全年齢 ロープライス お嬢様
その他 『徒花異譚』の読み方は ”あだばないたん” です。
推奨攻略順
徒花異譚・夢 → 花さかじいさん → 浦島太郎 → うりこ姫とあまのじゃく → 桃太郎 → 徒花異譚・現
※ノーマル&バッドエンドあり
※選択肢は多いのですが、自力攻略可能です。
※四つのおとぎ話の完成→徒花異譚・現となります。
あらすじ
少女「……ここはどういったところなのでしょう」
少年「憶えていないのか?」
少女「それどころか、わたし自身が誰であるのかさえわかりません」
ここは実体を持たない倉のなかの絵草子の世界。
ふたりの役目は絵草子から絵草子へ渡り歩きながら、おとぎ話に歪みが生じていないかを見張り、修正していくことです。
そして物語を渡り歩くたびに、白姫は後悔してしまいます。
「あたしがおはなしの『さき』を作らなければ、あのようなことにはならなかったのでしょうか」
この『徒花異譚』は、現実の苦しみから美しいお伽の国へと逃げこんだ少女の恋物語です。
感想・レビュー
まず『徒花異譚』の感想を一言で表現すると「文章の美しさは永久保存版レベル」です。作品内には綺麗な表現や巧な比喩が、多彩に散りばめられていました。
きっと今作を描いた作家さんは、わたしたちが欠かさず食事を摂るのと同じように、日々たくさんの本に触れてきたのでしょう。
肝心のお話のほうですが、白姫という少女と黒筆という少年が、四つのおとぎ話の考察を繰り返しながら渡り歩いていくという内容です。ときにはそのおとぎ話自体をつくり変えたり、物語を付け加えたりしながら。
そして徐々に白姫の失くした記憶が明らかになっていきます。『徒花異譚』はそんなお話です。
物語自体は層が厚く、とても素敵な内容なのですが、反面、少し小難しくてじみ~な作品です。そしてお話は淡々とつづきます。ですので異世界ファンタジー全盛期のこの時代の読者に受け入れられるかは疑問を呈します。
しかしこのような秀作は、往々にしてじわりじわりと良さが伝わっていくものです。きっと後々、名作としてに語り継がれていくのではないでしょうか。
シナリオレビューのつづきは、最後の ”総合評価” で記します。
その他の感想です。
まず絵ですが「一見とっつきにくそうだな~」と思われる人も多いでしょう。正直わたしもそう思っていました。
しかし物語を進めるにつれて「この作品にはこの絵しかない!」と意識が変わっていきました。あとから聞いたのですがこの絵を描いたのは、名作として名高い「赫炎のインガノック」の原画家"大石竜子先生"ということです。
演出に関しても満足しています。通常の美少女ゲームとは少し違った魅せ方をしていて、逆にそれが新鮮で、CG等の不足も感じませんでした。
システムについては、フルプライス作品と比較してしまうと機能は少ないのですが、使い勝手は良かったです。
メインキャラクターの紹介です。
黒筆 徒花の郷の名付け親
筆を使って様々な不思議を描くことができます。
白姫曰く、目標に向かって臆することなく進み、情に流されず必要とあらば戦い、決して冷たくすることはない存在だそうです。完璧すぎますよね(笑)
白姫 物語の導き手 主人公兼メインヒロイン
絵草子(物語)を渡り歩き、時の経過による汚れや虫食いを修復するのが彼女の役目です。子供の頃から病弱で、力は弱く反射も鈍い。少し足を速めれば、すぐに疲れてしまいます。身体能力は高いとは言えませんが、奥ゆかしくて優しい性格をしています。
●総合評価
2020年に入って『マルコと銀河竜』だったり今作だったり、いままでとはちがった新しいかたちの秀作たちが顔の覗かせてきています。近年の傾向としてロープライス、ショートストーリーのエロなしという作品が増えているのも事実です。
わたし個人としては、よりシナリオ重視の作品が増えて歓迎なのですが、ちがった意見をお持ちのかたもいらっしゃるでしょう。
今作は『ATRI』との同時発売ということもあり、『ATRI』のB面的存在に成り下がっている印象が否めませんが、決してそんなことはありません。
『徒花異譚』は美少女ゲームではなく、もちろんエロゲでもなく、これこそノベルゲームと言うに相応しい文学色の濃い素敵な作品でした。
『夢は徒花。徒花とは決して実をつけず枯れていくこと。夢のなかでどんなに美しく咲きほこっていても、目が覚めてしまえば何も残らない』
今作を攻略して、心のなかに強く刻み込まれた言葉です。
『徒花異譚』は二千円弱。新刊本を買う感覚で、手に入れることができる価格です。そして、その費用対効果は抜群です。
特におとぎ話の好きな人や物語を考察するのが得意な人、美しい文章に飢えている人におすすめしたい逸品です。ぜひ攻略してみて下さい。
